DiamondJanuary 18, 2026

ナポレオンの剣、アントワネットの黒い帽子。歴史を目撃し続けた「リージェント」

ルーヴルで輝く140カラットのダイヤ「リージェント」。ナポレオンの剣や王妃の帽子を飾り、革命の炎も目撃した「歴史の生き証人」の数奇な物語を語ります。

ナポレオンの剣、アントワネットの黒い帽子。歴史を目撃し続けた「リージェント」

パリの ルーヴル美術館 。広大な館内を歩き回って少し足が疲れてきた頃、アポロン・ギャラリー(※1)という黄金に輝く回廊に足を踏み入れると、一際強い光を放つガラスケースに出会います。

そこにあるのは、140.64カラットという信じられない大きさのダイヤモンド。「ル・レジャン(Le Régent)」、日本語では「リージェント(摂政)」と呼ばれるこの石は、ただ美しいだけではありません。フランスという国が経験した栄光と没落、そして血なまぐさい革命のすべてを、その透明な身体に焼き付けてきた生き証人です。

このダイヤモンドがたどった運命は、まるで長編小説のようでした。

18世紀初頭、インドで発見されたこの石は、当時のフランス摂政フィリップ2世(※2)によって買い取られました。そこから「リージェント」という名が付き、若きルイ15世(※3)の戴冠式で使われる王冠を飾ることになります。フランス王室の権威そのものとして、宮殿の中心で輝いていました。

でも、この石の「職歴」でとくに興味深いのは、王冠の宝石としてだけではない使われ方をしたことです。

華やかな時代を象徴するエピソードとして、マリー・アントワネット(※4)の存在は外せません。彼女はこの巨大なダイヤモンドを、なんと黒いベルベットの帽子に留めて身につけたといいます。漆黒の生地の上でギラギラと輝く140カラットの石。当時のヴェルサイユ宮殿で彼女がどれほどの視線を浴びていたか、想像するだけで少しめまいがしそうです。

ところが、革命の足音とともに石の運命は暗転します。

1792年、革命の混乱に乗じて王室の宝物庫が襲撃され、リージェントは何者かによって盗み出されてしまいました。フランスの至宝が消えたのですから、大騒ぎです。結局、石は屋根裏部屋の梁の間に隠されているところを発見されるのですが、あのきらびやかな宝石が埃まみれの屋根裏で震えていたかと思うと、なんとも皮肉な話ですよね。

そして現れたのが、ナポレオン・ボナパルト(※5)です。

彼は皇帝に即位する際、この石を王冠ではなく、自分の剣の柄(つか)にはめ込みました。「私は王家の血筋ではなく、武力と実力でこの国を統べるのだ」という強烈なメッセージにも見えます。アントワネットの帽子を飾った石が、今度は戦場の英雄の手元で冷たく光る。持ち主が変わるだけで、宝石の意味合いがこうも変わるものでしょうか。

さらにナポレオンは、この石をただの飾りにはしませんでした。戦争でお金が足りなくなると、彼はリージェントを担保にして銀行から融資を受けたこともあります。騎兵隊の馬や兵士たちの給料を確保するために、フランスの至宝が質草にされました。美しさよりも実利を取る、いかにもナポレオンらしいエピソードです。

王冠、帽子、剣、そして借金のカタ。

数奇な運命を転がり続けたリージェントは今、ルーヴル美術館の厳重なケースの中で、ようやく静かな余生を送っています。その輝きは、インドの鉱山で見つかった時と少しも変わっていません。

Shonagon / Wikimedia Commons (CC0)

もしルーヴルを訪れる機会があれば、モナ・リザの人だかりを抜けて、アポロン・ギャラリーへ足を運んでみてください。ガラス越しにその石と目が合ったとき、「ああ、君は全部見てきたんだね」と声をかけたくなるはずです。そこには、教科書で読むよりもずっと生々しいフランスの歴史が凝縮されているのですから。


【語句解説】

(※1)アポロン・ギャラリー ルーヴル美術館内にある、フランス王室の宝石( クラウン ・ジュエル)が展示されている豪華絢爛な回廊。あの有名なヴェルサイユ宮殿の「鏡の間」のモデルになったとも言われる場所で、部屋そのものが宝石箱のような美しさです。

(※2)摂政フィリップ2世 幼くして王になったルイ15世の代わりに、フランスの政治を取り仕切った人物。「リージェント(摂政)」というダイヤモンドの名前は、彼がこの石を購入したことに由来しています。

(※3)ルイ15世 「最愛王」とも呼ばれたフランス国王。彼の治世は長く続きましたが、同時に派手な宮廷生活や戦争で国の財政を傾かせたとも言われています。このダイヤモンドを王冠の正面に飾りました。

(※4)マリー・アントワネット ルイ16世の王妃。ファッションリーダーとして当時の流行を牽引しましたが、フランス革命によって断頭台の露と消えました。彼女の華やかな装いの一部として、このダイヤモンドも使われていました。

(※5)ナポレオン・ボナパルト フランス革命後の混乱を収拾し、皇帝になった軍人。王家の伝統にとらわれず、ダイヤモンドを剣に埋め込んで権力を誇示するなど、宝石の使い方も非常に独創的かつ実用的でした。

【参考・出典について】 本記事で紹介した作品の来歴や詳細な仕様などは、所蔵元であるルーヴル美術館(工芸品部門)の公式記録『The Regent (Le Régent)』に基づいています。また、フランス王室の宝石(Les Joyaux de la Couronne de France)に関する史料および画像解説として、フランス国立美術館連合 (RMN) のアーカイブを参照いたしました。

Jewelism Market 編集部
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Jewelism Market 編集部

宝石の「歴史」と「個性」にフォーカス。石そのものが持つ美しさと、背景にある奥深い世界をお届けします。

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