教会の天井と「イブニング・エメラルド」 | ペリドット・クロニクル vol.2
世界遺産も騙された?ペリドットが「イブニング・エメラルド」と呼ばれた夜の秘密

聖なる旅路と、壮大な「勘違い」
エジプトの太陽の下でチヤホヤされた後、僕は長い旅に出た。 時代は中世。十字軍の騎士たちのポケットに入って海を渡り、ヨーロッパへと辿り着いたんだ。
ここだけの話、ヨーロッパでの僕は、ちょっとした「人違い」をされたまま数百年を過ごすことになった。 僕のこの美しい緑色を見て、多くの人がこう言ったんだ。 「素晴らしい! これは巨大なエメラルドに違いない!」 ……うん、気持ちはわかるよ。緑の宝石といえばエメラルドが有名だしね。でも、僕はペリドットだ。鉱物としての成分も、輝き方も全然違う。
その「勘違い」の最たる例が、ドイツにある世界遺産、ケルン大聖堂だ。 あそこの祭壇には「東方の三博士の聖棺」という黄金の箱があるんだけど、その頂点に飾られている巨大な緑の宝石。あれ、ずっとエメラルドだと思われていたんだよ。 でも実際は? そう、僕(ペリドット)なんだ。 200カラット以上もある僕の仲間が、大聖堂の一番高いところから、何世紀もの間、人々の祈りを見守ってきた。
「人違いだよ!」って言いたかったかって? いやいや、僕はそんな細かいことは気にしない。 名前が何であれ、人々が僕の輝きを見て「神々しい」と感動し、救いを感じてくれるなら、それで十分ハッピーだからね。僕は根っからのエンターテイナーなんだ。
ロウソクの光で本領発揮
ヨーロッパの教会や宮殿は、エジプトの砂漠と違って、昼間でも薄暗い場所が多かった。 分厚い石壁、高い天井。夜になれば、頼りはロウソクや松明(たいまつ)の揺らめく炎だけ。 普通の宝石なら、光が足りなくて黒っぽく沈んで見えてしまうようなシチュエーションだ。
でも、ここからが僕の真骨頂。 僕には「 複屈折 (ふくくっせつ)」という特技がある。 入ってきた光を内部で二つに分けて、乱反射させる能力のことだ。難しい理屈は抜きにして、要するに「少ない光でも、倍にして輝ける」ってこと。
夜会が開かれる宮殿の大広間。 ロウソクの柔らかな光の中で、ダイヤモンドやサファイアが少し眠たそうにしている時、僕だけはギラギラと鮮やかなオリーブグリーンを放ち続けた。 薄暗がりの中でこそ、僕の色は濡れたように艶めき、妖艶なほどの存在感を放つんだ。
「夜会のエメラルド」と呼ばれて
そんな僕の姿を見て、貴族たちはいつしか親しみを込めてこう呼ぶようになった。 「イブニング・エメラルド(夜会のエメラルド)」
昼間の太陽の下だけじゃなく、夜の帳(とばり)が下りてからも元気いっぱい。 むしろ、日が沈んでからの方が魅力が増す。 それが僕の自慢なんだ。
ある貴婦人が、夜会で僕を身につけながら言っていたのを覚えているよ。 「この石を見ていると、暗い夜でも心が弾むわ。まるで、手元に小さな灯りを持っているみたい」 その言葉を聞いた時、僕は思ったんだ。 「そうだよ、そのために僕はここにいるんだ」って。
マントル の暗闇から飛び出し、夜の島で見つけられ、薄暗い教会や夜会で愛されてきた僕。 僕の役目はいつだって、「光が足りない場所に、光を届けること」。 周りが暗くなればなるほど、 「よし、僕の出番だ!」って張り切っちゃうんだよね。
だから、もし君が「今の状況、ちょっと先が見えなくて不安だな」と感じているなら、僕のことを思い出してほしい。 暗闇は、怖いものじゃない。 僕らが輝くための、最高のステージなんだから。
【Jewelismコラム】ドイツ・ケルン大聖堂の至宝「東方の三博士の聖棺」。その頂点に輝く200カラット超の巨大な石は、長年エメラルドだと信じられてきましたが、実はペリドットであることが判明しています。十字軍の時代に欧州へ渡り、高い「複 屈折率 」によって蝋燭の灯りでも鮮やかに輝くことから、「イブニング・エメラルド」として夜会を彩った歴史も実話なんですよ。

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