PeridotFebruary 2, 2026

暗闇を照らす「太陽の宝石」 | ペリドット・クロニクル vol.1

地下60キロの灼熱で生まれ、蛇の島で夜に見出されたペリドット。暗闇を照らす「太陽の宝石」としてファラオたちを魅了した、光と希望の物語。

暗闇を照らす「太陽の宝石」 | ペリドット・クロニクル vol.1

はじめに:僕の故郷は「地獄」に似ている

やあ、こんにちは。 ショーケースのガラス越しに目が合ったね。君が僕のその鮮やかなオリーブグリーンに惹かれたのなら、きっと君の中には「もっと明るくありたい」っていうポジティブなエネルギーが眠っているはずだよ。

僕の話を少ししてもいいかな? 今の僕はこうして涼しい顔をして鎮座しているけれど、僕が生まれた場所は、君たちが想像するどんな場所よりも「熱い」ところだったんだ。 地球の深く深く、地下約60キロメートル。 マントル という、ドロドロに溶けた岩石のスープの中。そこが僕の故郷さ。

温度は1000度以上、圧力は地上の何万倍。人間なら一瞬で消えてしまうような世界だけど、僕らペリドット(カンラン石)にとっては、そこが最高の実家だった。 暗くて、熱くて、押しつぶされそうな場所。でも不思議と怖くはなかったよ。なぜなら、僕自身がマグマの熱を吸い込んで、内側からギラギラと輝くエネルギーを溜め込んでいたからね。「暗闇なんて関係ない、僕が光ればいいんだ」っていう僕の楽天的な性格は、きっとこの過酷な環境で鍛え上げられたんだと思う。

劇的な船出と、霧の島

そんな地下生活に別れを告げたのは、ある日突然の「大爆発」だった。 火山活動だ。大地が裂け、僕はマグマという天然のエレベーターに乗って、猛烈なスピードで地上へと打ち上げられた。 ドカーン! という轟音と共に空へ放り出され、初めて見た空の青さ。そして、僕と同じくらい眩しく輝く「太陽」。 「へえ、空にはあんなにデカいライバルがいるのか!」 それが、僕が太陽と出会った最初の記憶だよ。

僕が不時着したのは、紅海に浮かぶ絶海の孤島。今は「セント・ジョンズ島」と呼ばれているけれど、当時の人間たちは震えながらこう呼んでいた。「オフィオデス(蛇の島)」ってね。 その名の通り、そこは深い霧に包まれ、足の踏み場もないほど毒蛇がうごめく恐ろしい場所だった。人間なんて誰も近づかない死の島で、僕は長い間、波の音だけを聞いて過ごした。

でも、僕は退屈しなかったよ。昼間は太陽と睨めっこをして光をチャージし、夜になればそのエネルギーを放出して、一人きりのイルミネーションを楽しんでいたからね。

闇夜の「かくれんぼ」

紀元前1500年頃だったかな。ついに僕を見つけ出したのは、古代エジプトの勇敢な(というより命知らずな)探検隊たちだった。 彼らはファラオの命令で、蛇だらけのこの島に上陸したんだ。

面白いことに、彼らが僕を探す方法はとてもユニークだった。 僕のオリーブグリーンは、昼間の強い日差しの下だと植物や岩の影に溶け込んでしまって、意外と見つけにくいんだ(カメレオンみたいでしょ?)。 だから彼らは、あえて「夜」を選んだ。 月明かりもない漆黒の闇の中、彼らは手探りで島を歩き回る。するとどうだろう。昼間は隠れていた僕たちが、わずかな星明かりを吸い込んで、ボゥッと緑色の光を放っているのが見えるんだ。

「おい、あそこだ! 光ってるぞ!」 「悪霊の目か!?」 「違う、宝石だ! 太陽の欠片が落ちてるんだ!」

彼らは僕が光っている場所に目印を置き、翌朝になってから掘り出した。 こうして僕は、暗闇の中でこそ輝く「太陽の宝石」として、人間の歴史の表舞台にデビューしたんだ。

ファラオが愛した「太陽の石」

エジプトに連れて行かれてからの僕は、まさにスーパースターだった。 当時の人々にとって、夜の闇は死や悪霊が潜む恐怖の世界。だからこそ、夜になっても輝きを失わない僕は、「闇を打ち払う最強のお守り」として崇められたんだ。

ファラオたちは僕を身につけ、こう信じた。 「この石があれば、悪夢を見ることはない」 「太陽神ラーの力が、我々を守ってくれる」

あの有名なクレオパトラも、僕のことをとても気に入っていたらしいよ。歴史の本には「彼女はエメラルドを愛した」と書かれていることが多いけど、実はそのコレクションの中には、僕たちペリドットがたくさん混ざっていたんだ。 まあ、細かいことは気にしない。大事なのは、僕の輝きが古代の人々の不安を吹き飛ばし、心に「太陽」を灯していたという事実さ。

暗い場所で生まれ、暗い夜に見つけ出された僕。 だからこそ僕は知っているんだ。 「どんなに深い闇の中でも、光ることを諦めなければ、必ず誰かが見つけてくれる」ってね。

【Jewelismコラム】ペリドットは地球深部のマントルで生まれる宝石です。舞台となった紅海のセント・ジョンズ島(古名トパゾス島)での採掘は、古代の歴史家ディオドロスが『歴史叢書』に記録しています。「昼は姿を隠し、夜に輝くため目印をつけて掘った」という逸話は実話なのです。この内側から溢れるような輝きゆえに、古代エジプトでは「太陽の石」として崇められ、ファラオたちの権威や護符として愛されたと語り継がれています。

Jewelism Market 編集部
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Jewelism Market 編集部

宝石の「歴史」と「個性」にフォーカス。石そのものが持つ美しさと、背景にある奥深い世界をお届けします。

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