正面はスミレ色、横顔は透明? アイオライトが隠し持つ「三つの顔」
見る角度で色が変わる宝石、アイオライト。その特徴である「多色性」の仕組みや、ウォーターサファイアと呼ばれる理由、美しい青を引き出す職人技について解説します。

宝石箱の中に、ひとつだけ「気分屋」な石があるとしたら、それは間違いなくアイオライトでしょう。
パッと見た感じは、落ち着いたスミレ色。少しインクを落としたような深い青紫(バイオレット・ブルー)で、サファイアほどの派手さはないけれど、ずっと眺めていられる静かな魅力があります。でも、この石の面白さは、指でつまんで角度を変えた瞬間に現れます。
さっきまであんなに濃い青だったのに、90度傾けて覗き込むと、急に色が抜けて枯れ草のような黄色に見えたり、透き通ったグレーに見えたりするのです。
これは一般的に「 多色性 」と呼ばれる性質ですが、アイオライトの場合はさらに詳しく言うと「強い三色性(トリクロイズム)」を持っています。
単に「色が2色に見える」程度のものではありません。鉱物学的な話を少しすると、アイオライトは「斜方晶系」という 結晶構造 を持っています。この構造内を通る光が、方向によって異なる吸収のされ方をするため、肉眼でもはっきりと分かるほど劇的に色が変わるんです。
具体的には、一石の中に「紫がかった青」「淡い黄色」「透明に近いグレー」の3色が同居している状態ですね。
真正面からは凛としたスミレ色で澄ましているのに、横顔を見せた途端に「実は私、こんな色も持ってるの」と素顔を見せてくる。なんだか、親しい人にだけふと見せる、いたずらっぽい表情みたいじゃないですか?
ただ、この性質、石をカットする職人(カッター)さんにとっては、かなりの難題です。
原石を手に取ったとき、どの方向が「一番美しい青」を見せるのかを正確に見極めなければなりません。もし、 テーブル 面(石の正面)を誤って「黄色やグレーに見える軸」に合わせてカットしてしまったら? その石は、全体的に色が抜けたような、ぼんやりとした仕上がりになってしまいます。
これを業界では「色が抜ける」なんて表現したりしますが、アイオライトに関しては、わずかな角度のズレが命取り。私たちが美しい青を楽しめるのは、職人さんが原石の結晶軸を完璧に読み切り、ベストな角度で切り出してくれた証拠なんです。
ちなみに、宝石名はアイオライトですが、鉱物学的な正式名称は「コーディエライト」と言います。地質学者のピエール・ルイ・コルディエという方の名前に由来するんですが、お店ではこの名前を聞くことは少ないかもしれません。
「ウォーターサファイア」という別名も、この性質を知ると腑に落ちます。角度によって青く見えたり、水のように透明に見えたり。その揺らぎこそが、アイオライトの味。
もしジュエリーショップや展示会で ルース(裸石) を見かけたら、ぜひお店の人に許可を取って、いろんな角度から光にかざしてみてください。「三色性」という言葉を思い出して観察すると、職人さんがいかに苦労してその「青」を正面に持ってきたか、その技術の高さにも感動できるはずです。




