モルガナイトと、NYの金融王 | 宝石界のシンデレラストーリー vol.1
モルガナイトの名前の由来と発見の歴史。ティファニーの宝石学者クンツ博士と金融王J.P.モルガンに見初められた、数奇な運命をモルガナイトの視点で綴ります。

はじめまして。ふんわりとした桜色に、透き通るような透明感。ベリル家ご自慢の「愛され担当」、モルガナイトです。
私のこと、名前くらいは聞いたことがあるかしら? 宝石箱の中でひときわ優しい光を放つピンク色の石。それが私。 でも、私の生い立ちまで知っている人は意外と少ないの。「綺麗なピンク色ね」って褒められるのは嬉しいけれど、私の本当の魅力は、その少し変わった運命にあると思っているわ。
まず、私の家族の話をさせて。 私の家系「ベリル族」は、宝石界でも指折りの名門なの。 一番上の兄さんは、あの深緑の瞳を持つエメラルド。数千年前から王族や権力者に愛されてきた、威厳たっぷりの歴史的スターよ。そしてお姉ちゃんは、海の色をそのまま閉じ込めたようなアクアマリン。船乗りたちを守る伝説を持った、クールビューティーな存在ね。
二人は紀元前から人間の歴史と共にあったけれど、私は違う。 私が人間たちの前に姿を現したのは、ずっとずっと後のこと。1911年頃、場所はアフリカ大陸の東に浮かぶ島、マダガスカルでのことよ。それまで私は、何億年もの間、暗くて冷たい大地の奥深くで眠っていたわ。誰にも見つからないように、ひっそりとピンク色の輝きを隠してね。マダガスカルの太陽は眩しかったけれど、初めて地上に出た時の風の匂いは、今でも覚えているわ。
発見された当初の私は、ただの「ピンク色のベリル」という扱いだったの。「綺麗だけど、名前がないね」なんて言われて。 宝石にとって、固有の名前がないというのは、アイデンティティがないのと同じこと。「ベリル家のピンク色の子」……うーん、悪くはないけど、ちょっと味気ないと思わない? アイドルとしてデビューするのに、「研修生A」って呼ばれているようなものだもの。
そんな私の運命を劇的に変えたのが、ある二人の男性との出会いだったわ。 一人は、あの ティファニー の副社長であり、著名な宝石学者でもあったジョージ・フレデリック・クンツ博士。彼は私のこの優しいピンク色に一目惚れしてくれたの。「なんて可憐で、気品がある石なんだ」って。 彼は私の魅力を世界中に伝えるために、特別な名前が必要だと考えたのよ。
そして、彼が思いついた名前の由来。それこそが、私の「セレブな一面」を決定づけることになったの。 クンツ博士は言ったわ。「この美しい石に、我々の偉大なパトロンであり、芸術と科学の支援者である彼の名前を贈ろう」と。
その「彼」とは、アメリカの金融王、ジョン・ピアポント・モルガン(J.P.Morgan)氏。 そう、私の名前「モルガナイト」は、世界を動かす大富豪の名前が由来なの。すごいでしょ? こんなに可愛らしい、砂糖菓子のようなピンク色の顔をしておきながら、背後に控えているのはウォール街の帝王というわけ。この強烈なギャップこそが、私の最大の魅力であり、私が「天性のアイドル」と呼ばれる所以(ゆえん)なのよ。

モルガン氏は、熱心な宝石コレクターとしても有名だったわ。自分の名前がついた宝石が誕生したことを、彼はとても喜んでくれたそうよ。「私の名前を持つこの石は、最高の宝石だ」 そんなお墨付きをもらって、私はマダガスカルの土の中から、いきなりニューヨークの社交界へと華々しくデビューすることになったの。
ティファニーのショーケースに並び、スポットライトを浴びた時の高揚感といったら! 着飾った淑女たちが、「まぁ、なんて愛らしい色なの」って次々に足を止めてくれる。 「ピンクベリル」という地味な呼び名は消え去り、私は「モルガナイト」として、世界中の女性たちの憧れの的になったのよ。
発見からわずかな期間で、名門ブランドと世界的な大富豪に見初められてスターダムにのし上がる。これってまさに、宝石界のシンデレラストーリーだと思わない? 少し遅れてやってきた末っ子の私は、兄や姉とは違う、近代的な輝き方を選んだの。歴史の重みはないかもしれないけれど、その分、私は軽やかで自由。新しい時代の空気をたっぷり吸い込んだ、モダンな宝石なのよ。
これが私の華麗なるデビュー秘話。 でも、物語はまだ始まったばかり。次回は、私がどうしてこんなにも現代の女性たちに愛されるのか、その秘密をお話しするわね。
【Jewelism コラム】 物語にある通り、モルガナイトは1911年にマダガスカルで発見された比較的新しい宝石です。当初は単に「ピンクベリル」と呼ばれていましたが、ティファニー社の著名な宝石学者G.F.クンツ博士の提案により、同社の主要な顧客であり宝石収集家でもあった銀行家J.P.モルガン氏に敬意を表して命名されました。この命名はニューヨーク科学アカデミーの会合で正式に発表されています。可憐な外見と、金融王という由来のギャップは、モルガナイトを語る上で欠かせないエピソードとなっています。







