MorganiteJanuary 21, 2026

クレオパトラも知らない、新時代のミューズ | 宝石界のシンデレラストーリー vol.2

モルガナイトには古代の伝説がない?エメラルドやアクアマリンとの比較、20世紀初頭のファッションと宝石の色の関係、マンガンが生み出すピンク色の秘密をモルガナイトの視点で語ります。

クレオパトラも知らない、新時代のミューズ | 宝石界のシンデレラストーリー vol.2

さて、前回は私の華麗なるデビューのお話をしたけれど、今回は少し「歴史」についてお話ししましょうか。

宝石図鑑を開くと、私の兄であるエメラルドには「絶世の美女クレオパトラが愛した石」とか、姉のアクアマリンには「船乗りたちを守る海の精霊の宝物」なんていう、ロマンチックな伝説がたくさん載っているのよね。神話の時代から語り継がれる武勇伝、正直に言うと、ちょっと羨ましいなって思うこともあるわ。

ここで告白してしまうけれど、私にはそういった「古代の伝説」は一切ないの。だって、古代ローマの貴族たちも、エジプトのファラオも、私の存在に気づいていなかったんだもの。彼らが夢中になっていたのは、濃い緑や深い青の石たち。 もしあの時代に私が見つかっていたら、クレオパトラはエメラルドよりも私を愛したかもしれない……なんて、さすがにちょっと強気すぎかしら? 「このピンクは私の肌を美しく見せるわ」なんて言って、王冠の真ん中に私を据えてくれたかもしれないのにね。

でもね、歴史がないということは、裏を返せば「過去のしがらみがない」ということ。 私には、血なまぐさい争いの歴史も、重苦しい呪いの伝説も無縁なの。私はただひたすらに、愛されるためだけに生まれてきた「新時代のミューズ」なのよ。

私が発見された20世紀初頭という時代を想像してみて。それはまさに、世界が大きく変わろうとしていた激動の時代。女性たちは重たいコルセットを脱ぎ捨てて、もっと自由に、もっと自分らしく生き始めていたわ。「 ベル・エポック (良き時代)」から、モダンなファッションへと移り変わる過渡期。そんな新しい時代の空気に、重厚で厳格な色の宝石よりも、私の明るいパステルピンクはぴったりだったの。

私のこの色は、純粋なピンクだけじゃないのよ。見る角度によって色が微妙に変わって見える性質を持っているの。これを専門用語で「 多色性 」って言うんだけど、ある角度からは鮮やかなピンクに、別の角度からは少し青みを含んだ淡い色に見えたりするわ。 この複雑なニュアンスが、単純な「可愛さ」だけじゃ満足できない、自立した大人の女性たちの心を掴んだの。「ただ可愛いだけじゃない、私にはいろんな表情があるのよ」って主張しているみたいでしょう?

ちなみに、ベリル家の中で私だけがピンク色になれた秘密、知りたい? それはね、「マンガン」という成分のおかげなの。地中で結晶になる時に、ほんの少しのマンガンが混ざり込むことで、この奇跡のような色が生まれるのよ。 エメラルド兄さんはクロムやバナジウム、アクアマリンお姉ちゃんは鉄。同じ親(鉱物グループ)から生まれても、出会う成分によってこんなに個性が変わるなんて、宝石の世界って本当に不思議よね。

私の名付け親であるJ.P.モルガン氏は、自分の名前がついたこの石をとても大切にしてくれたわ。 彼が私をニューヨークの自然史博物館に寄贈してくれたおかげで、世界中の人々が「なんて愛らしい石なんだろう」って足を止めてくれるようになったの。 王室の宝物庫に隠されるのではなく、博物館で誰もがその輝きを楽しめる。そんな「開かれた宝石」であることも、私の自慢の一つよ。

古代の王様に守られた伝説はないけれど、近代の金融王に見初められ、自由を愛する新しい時代の女性たちに選ばれた歴史。 古い書物に埃をかぶって眠るよりも、私は今の時代の光の中で、生きた宝石として輝いていたい。これこそが、私の誇り高い生き方なの。

「伝説がないなら、これから作ればいい」。 そう思わせてくれるポジティブなエネルギーが、私の輝きの源なのかもしれないわね。

【Jewelism コラム】 モルガナイトの発色は、 結晶構造 内に微量に含まれるマンガン(Mn)に起因します。本文中で触れた「多色性(二色性)」はベリル族の特徴であり、モルガナイトも見る角度によってピンク色が濃く見えたり、紫がかって見えたりする性質を持ちます。また、歴史的背景として、20世紀初頭は アール・ヌーヴォー から アール・デコ へと様式が変遷し、女性のファッションも軽やかになっていった時期です。パステルカラーや明るい色石が好まれ始めたこの時代に、モルガナイトの登場は完璧にマッチしていました。

Jewelism Market 編集部
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Jewelism Market 編集部

宝石の「歴史」と「個性」にフォーカス。石そのものが持つ美しさと、背景にある奥深い世界をお届けします。

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