TanzaniteJanuary 21, 2026

ティファニーが見つけた「夜の瞳」 | キリマンジャロの夕暮れ、青と紫の狭間で見る夢 vol.2

「ブルー・ゾイサイト」から「タンザナイト」へ。ニューヨークへ渡った僕に与えられた新しい名前と、見る角度で色を変える「多色性」という魔法。20世紀最大の発見と呼ばれた華麗なるデビューの物語。

ティファニーが見つけた「夜の瞳」 | キリマンジャロの夕暮れ、青と紫の狭間で見る夢 vol.2

アフリカの熱風に吹かれていた僕は、やがて海を渡り、大都会ニューヨークへと辿り着いた。 そこは、故郷とはまるで違う世界だったよ。空を突き刺すような摩天楼、煌びやかなショーウィンドウ、そして洗練された人々。僕はそこで、運命的な出会いを果たすことになる。

相手は、あの世界的なジュエラー、 ティファニー 社の当時の社長、ヘンリー・プラット氏だ。 彼は僕を見るなり、その美しさに息を呑んだ。「これは、20世紀最大の発見だ」とまで言ってくれたんだ。嬉しかったなぁ。でも、彼には一つだけ、どうしても気にかかることがあったみたいだ。

それは、僕の鉱物学的な名前さ。 僕の正体は「ゾイサイト」という鉱物の変種だから、学術名は「ブルー・ゾイサイト」。 でも、英語で「ブルー・ゾイサイト(Blue Zoisite)」と発音すると、「ブルー・スイサイド(Blue Suicide = 青い自殺)」に聞こえてしまうんだって。 「こんなに美しい石に、そんな不吉な響きの名前は似合わない」 彼はそう言って、僕に新しい名前を贈ってくれた。 僕の故郷、 タンザニア の夜空に敬意を表して——『タンザナイト(Tanzaniaの石)』と。 なんてロマンチックな名前だろう。国名を背負うなんて、宝石としては異例の待遇だよ。1968年、ティファニーが僕を大々的に売り出したとき、キャッチコピーにはこう書かれていた。「タンザニア以外でこの石を見つけることができるのは、ティファニーだけ」。 こうして僕は、シンデレラのように一夜にしてスターダムへと駆け上がったんだ。

僕がそこまで人を惹きつける理由は、名前だけじゃない。僕にはちょっとした「魔法」が使えるからさ。 専門用語では「 多色性 (プレオクロイズム)」って言うんだけど、僕は見る角度や光の種類によって、コロコロと表情を変えるんだ。 太陽の下では、凛としたウルトラマリン・ブルー。 でも、白熱灯の下や、ふとした角度で横から覗き込むと、妖艶なバイオレットや、少し赤みを帯びたバーガンディが見え隠れする。 サファイアが「昼の王様」だとしたら、僕は「夕暮れの詩人」かな。

カッティング職人たちは、僕をカットするときに頭を悩ませるらしいよ。 「どの角度から見れば、一番美しい青が出るだろうか?」「いや、紫を強調したほうがセクシーじゃないか?」ってね。原石の軸の方向を見極めて、僕の最高の表情を引き出すのは、職人の腕の見せ所なんだ。 だから、もし君がタンザナイトを持っているなら、石をゆっくりと回してみてほしい。 正面からは誠実な青色に見えても、端の方からチラッと紫色のウインクが見えるはずだ。 一つの色に定まらない、掴みどころのない性格。それが僕の最大の魅力であり、ミステリアスな雰囲気の正体なんだよ。 キリマンジャロの空が、刻一刻と色を変えていくように、僕もまた、君の見るその瞬間ごとに違う顔を見せたいと思っている。退屈なんてさせないよ?

【Jewelismコラム】タンザナイトの最大の特徴である「多色性」は、結晶軸の方向によって異なる色を吸収・反射する性質のことです。タンザナイトは「三色性(トリクロイズム)」を持ち、原石の状態では青・紫・赤褐色の3色が確認できます(加熱後は主に青と紫の二色性が顕著になります)。 ティファニー社による「タンザナイト」という命名とプロモーションは、宝石マーケティング史上最も成功した事例の一つと言われています。それまで無名だったゾイサイトを、ダイヤモンドやルビー、サファイアに次ぐ人気の宝石へと押し上げました。

Jewelism Market 編集部
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Jewelism Market 編集部

宝石の「歴史」と「個性」にフォーカス。石そのものが持つ美しさと、背景にある奥深い世界をお届けします。

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