雷鳴と熱で生まれた、タンザナイトの「青」 | キリマンジャロの夕暮れ、青と紫の狭間で見る夢 vol.1
数億年の眠りを経て、1967年のタンザニアで起きた奇跡。平凡な褐色の石だったタンザナイトが、雷鳴と野火の猛火によって、世界で唯一の「夕暮れの色」へと生まれ変わるまでの劇的な誕生秘話。

僕の話をする前に、少し想像してみてほしい。 アフリカの広大な大地。乾いた風が吹き抜け、地平線の彼方には、万年雪を抱いたキリマンジャロが静かに鎮座している。そこが僕の故郷、 タンザニア のメレラニ丘陵だ。
今の僕は、こうして君の目の前で青や紫の光を放っているけれど、生まれたばかりの——いや、正確には「発見される前」の僕は、こんな姿じゃなかったんだ。 僕は、約5億8500万年もの間、地中の暗闇の中で眠っていた。その頃の僕は、地味で、どこにでもあるような不透明な褐色(ブラウン)の石だったんだよ。誰の目にも留まらない、ただの土塊の一部。もしそのまま時が過ぎていたら、僕は永遠に宝石と呼ばれることなく、大地の記憶の一部として朽ちていっただろうね。
僕の運命を変えたのは、1967年のある日、突如として降り注いだ「雷」だった。 乾季の草原に、天を引き裂くような轟音が響き、稲妻が落ちた。その衝撃は凄まじかったよ。雷は乾燥した草木に火をつけ、あっという間に辺り一面が紅蓮の炎に包まれたんだ。 熱い。とにかく熱かった。 地表近くにいた僕は、その野火の猛烈な熱に焼かれた。数百度、あるいはそれ以上の温度だったかもしれない。その時、僕の身体の中で何かが弾けたんだ。長い間、結晶の中に閉じ込められていたバナジウムという成分が、熱のエネルギーと化学反応を起こして、僕の色を塗り替えていく感覚があった。
嵐が去り、火が鎮火した後、そこには不思議な光景が広がっていた。 焦土と化した黒い地面の上に、透き通るような、深く美しい「青色」の石が転がっていたんだ。それが、生まれ変わった僕さ。
最初に僕を見つけたのは、マサイ族の牧畜民だったと言われている(あるいは、地元の探鉱者ともね)。彼は、昨日までは茶色い石ころだったものが、まるで夜空を切り取ったような青い宝石に変わっているのを見て、腰を抜かすほど驚いたんじゃないかな。 「空が落ちてきたのか?」 「神様のいたずらか?」 そんな声が聞こえてきそうだった。
この偶然、すごくないかい? 僕がこのメレラニの丘という極めて狭い範囲にしか存在しなかったこと。そこに雷が落ちたこと。そして、誰かが拾い上げてくれたこと。どれか一つでも欠けていたら、僕は今頃まだ土の中で茶色のまま眠っていたはずだ。 僕が纏っているこの青色は、ただの色じゃない。数億年の静寂と、一瞬の情熱的な「熱」が溶け合って生まれた、奇跡の証なんだよ。 だから僕は、自分のこの色を誇りに思っている。サファイアの冷静な青とも違う、少し熱を帯びたようなセンチメンタルな青。それは、あの日の雷鳴と炎の記憶が、今も僕の中で息づいているからかもしれないね。
【Jewelismコラム】タンザナイト(正式名称:ブルーゾイサイト)の発見には諸説ありますが、最も有力なエピソードは1967年、落雷による野火の後に発見されたというものです。本来、ゾイサイトという鉱物は緑や褐色が一般的ですが、タンザナイトに含まれるバナジウム成分が約500〜600℃の熱で加熱されることで、鮮やかな青紫色に変化します。 現在市場に出回っているタンザナイトの多くも、この自然界の偶然を再現するために「 加熱処理 (ヒートトリートメント)」が施されています。これは宝石の欠点を隠すためではなく、石が持つ潜在的な美しさを引き出すための、エンハンスメント(改良)として国際的に認められています。







